日本でのカジノ解禁で懸念されることのひとつに、マネーロンダリングがあります。その対策をいかに講じるかが課題ですが、何が問題なのか疑問に思う方もいることでしょう。
そこでマネーロンダリングとは何か、そしてなぜカジノが利用されやすいのかを解説します。さらに日本のカジノにおいてどのような対策を立てるのかもご紹介します。
カジノ法案でよく問題に上がる「マネーロンダリング」とは?
マネーロンダリングとは「資金洗浄」のことで、犯罪により得たお金の出元をわからなくする行為です。
具体的には架空名義(あるいは他人名義)の金融機関口座などを利用し、送金を繰り返すといった行為になります。
世界中の銀行など金融機関では、マネーロンダリングを防止する対策を講じています。日本では2007年1月4日に「本人確認法」が一部改定され、ATMでの現金振込みは10万円が限度額となりました。
本人確認法は2008年3月に「犯罪による収益の移転防止に関する法律」となっています。
個人でも場合によれば、マネーロンダリング行為とみなされることがあるので注意しましょう。
たとえば個人事業主が融資を受けて得たお金を他人名義の証券口座に振り込ませて、自身で株式売買をするようなケースが挙げられます。
カジノがマネーロンダリングの温床になりやすい理由
カジノではマネーロンダリングが行われる可能性があるため、その予防対策を講じています。なぜカジノが狙われやすいのかを説明します。
理由①チップにするだけで簡単に資金洗浄が完了する
カジノでは現金をチップに交換し、ゲームが終わればチップを現金に交換できます。そのためチップを媒体にして簡単に資金洗浄ができることで、マネーロンダリングに利用されやすいと言えます。
ランドカジノではゲームをする前に、テーブルに現金を置いてディーラーからチップを受け取ります。チップはカジノ内の「キャッシャー」と呼ばれる両替所で現金に交換します。
オンラインカジノの場合にはキャッシュで直接ベットできますが、入金したら入金額以上のベットをしなければ出金できないようになっています。
これはマネーロンダリング対策のためです。
理由②毎日、大金が動く場所である
カジノでは大金を持ち込んでも怪しまれることがない点も、マネーロンダリングの温床になりやすい理由です。
銀行口座の場合、大金を出し入れするだけでマネーロンダリングを疑われます。たとえばみずほ銀行の場合、200万円を超える現金の取引には本人確認を求められます。
カジノには不特定多数の人が出入りして大金を持ち込みます。もちろん入場時にはパスポートなど本人確認をしますが、大金を持ち込んでも詳しくチェックされることはありません。
理由③現金による取引は匿名性が高い
カジノでは現金を持ち込めるので、履歴が残らない「匿名性の高さ」がマネーロンダリングにつながりやすいと言えます。
現金そのものには流通履歴が残らないため、それがどのようなルートで持ち込んだ人の手に渡ったのか確認できません。つまり現金そのものをチェックしても、犯罪によって得られたものなのか判断できないということです。
カジノ側でもマネーロンダリング対策を講じていますが、現金による取引がその取り締まりを困難なものとしています。
理由④チップを仲間内で共有しやすい
カジノでは現金をチップに交換してゲームで使用するため、さらに現金の流れをわかりにくくしています。
これもカジノでマネーロンダリングが行われやすい理由となります。現金をチップに交換した時点で、マネーロンダリングは完了すると言ってもよいでしょう。
これはチップには属人性がないのが理由ですが、さらに仲間内で共有すれば現金の行方はわからなくなります。
つまりカジノに現金を持ち込んだ人と、キャッシャーから引き出す人が別人になれるということです。
このため入場時に本人確認をしても、退場時に現金を持たずに外に出ることができるためマネーロンダリングのチェックは難しくなります。
実際に起きた!カジノのマネーロンダリング事例
カジノでのマネーロンダリングは珍しいことではありません。実際にどのような事例があったのかをご紹介します。
事例①青年実業家がオンカジの勝利金をカジノでマネロン
アメリカのラスベガスにおいて、青年実業家が違法賭博や詐欺などの容疑で逮捕されました。
この青年実業家はオンラインカジノを運営しており、そこで稼いだ約5億8,400万ドルをマネーロンダリングにより出元がわからないようにしていたのです。
2年近くをかけて会社の資金の流れを作り、マネーロンダリングに及んだとのことで捜査は難航しました。
事例②マカオの「資金洗浄銀行」が大問題に
2005年9月に米財務省がマカオの大手銀行バンコ・デルタ・アジアを「資金洗浄疑惑銀行」に指定しました。
これは北朝鮮との不正取引があった形跡があるためで、希少金属の売却や偽造100ドルを含む数百万ドルの現金を受け入れていたとのことです。
マカオ政府は同行を管理下に置いて、北朝鮮関連口座を凍結しました。中国銀行もまたマカオ支店の関連口座を凍結しています。
事例③カジノ以外でも…山口組の「五菱会事件」
2003年1月に新宿の貸金業者アームズの経営者が逮捕される事件がありました。
この事件の捜査により五菱会の貸金業統括経営者逮捕につながりました。容疑は出資法違反で、2年間で100億円近くの収益をあげていたそうです。
その収益の一部はスイスや香港、シンガポールの口座に振り込まれていたことから、日本では最大規模のマネーロンダリング事件と言われています。
国内IR誘致に向けて…日本のマネーロンダリング対策案
日本でもIR法案によりカジノ開業が現実のものとなります。そこでマネーロンダリング対策としてどのようなことが講じられるのかをご紹介します。
対策①高額の現金取引は報告などを義務づけ
カジノ事業者に対して、顧客との間で100万円を超える現金取引がある場合には、カジノ管理委員会へ届出をすることが義務づけられます。
もしマネーロンダリングと疑われるケースがあれば、国家公安委員会へ通知するとしています。
カジノでマネーロンダリングが行われる大きな理由は現金でのやり取りがあるからです。その額が大きいほどに、マネーロンダリングの可能性を考えなければなりません。
高額の現金取引に関する報告書の提出は、国際機関FATF(金融活動作業部会)によって求められています。
対策②暴力団員の入場の禁止
マネーロンダリング対策として入場規制により暴力団員の入場も禁止されます。そもそも各都道府県の暴力団排除条例により、カジノ事業者は反社会的勢力の入場とゲームプレイを規制しなければなりません。そのため必然的にマネーロンダリング対策につながります。
カジノ事業者が保有するデータベースにおいて、登録している暴力団員の入場を見逃した場合には課徴金などが課せられます。
対策③チップの譲渡や持ち出し対策の徹底
マネーロンダリング対策としてチップの管理も大事なポイントとなります。そこで、チップの譲渡・譲受け・持ち出しは規制されます。これは「IR整備法第104条」に定められています。
譲渡禁止の例外として、生計を一にする配偶者や親族、そしてカジノ事業者は除くとしてあります。
この禁止行為に対してカジノ事業者がどのように措置を行うのかは今後の議題となりそうです。
対策④取引時の確認・記録の義務づけ
IR整備法の第103条に、「カジノ事業者による取引時確認等の措置を的確に実施」することとしています。
そのために従業員を教育することや体制を整備すること、評価を実施することも求めています。
この場合の取引記録とは、ゲームにおけるチップの使用や配当の受け取りなどの記録となります。
たとえば持ち込んだ現金に対してゲームで使用した金額が極端に少ないままチップを換金したり、ルーレットの赤黒の両方に賭けたりといった行為は、マネーロンダリングにつながる可能性があると判断されます。
まとめ
カジノではマネーロンダリングにより、犯罪などで不正に得た現金が持ち込まれる可能性があります。
日本でもカジノが解禁され運営されるようになれば、犯罪の温床となりかねません。そのため、さまざまなマネーロンダリング対策が講じられることになります。
カジノ利用者もカジノ内での行為で疑われることがないように、マネーロンダリングに関する知識を得ておくとよいでしょう。